バス憧れの大地へ

世界への旅(旅行記)

アジア周遊第8部 カンボジア、ベトナム、ラオス

ベンメリア ~“天空の城”のモデル

2007年10月22日

この日は少し遠出。タイ国境からのバスで一緒になった日本人男性ヒロアキと、シェムリアップ東郊外にある寺院・ベンメリアへ向かう。
トゥクトゥクを2人で36ドルでチャーターして出発。途中まで首都・プノンペンへ向かう整備された幹線道路を通り、幹線道路を外れて遺跡に到着するまでの道路もほぼ前線舗装されている。このあたりの道がこれだけ舗装されているのに、なぜタイのボーダーからシェムリアップまでの道路が舗装されていないのかが謎である。
ベンメリアへ向かう途中の風景
ベンメリアへ向かう途中の風景
シェムリアップを離れて暫くすると、道の左右に田園風景が開け、カンボジアの農村特有の高床式木造住宅が建っている風景が見えてくる。まさしくカンボジアの原風景。ベンメリアへの道中では山賊が出る可能性があるという話も聞いていたが、そんな気配は全く感じられない。田舎ののどかさで満ちている。
既にアンコール遺跡に魅了され、この景色にも魅了された私は、カンボジアがとことん気に入ってしまった。
しかし、この日のメインイベントはまだこれからなのである。

シェムリアップからトゥクトゥクで2時間強。ベンメリアの遺跡に到着。ここはアンコール遺跡の通し券が効かず、入場するには5ドルが必要となる。
ナーガ
ナーガの像。これは頭が7つ

東南アジア版ヤマタノオロチとでも言うのか、五頭(七頭の場合もあり)の蛇・ナーガの像が両脇に並んだ入り口をくぐって少し歩くと、森の中に方形の石が積み重なっている場所に出る。遺跡が崩れた後の瓦礫なのだが、瓦礫と呼ぶには余りに形が整っている。
ベンメリアの遺跡はその向こうにあった。どのように進めばいいのだろうとヒロアキと考えていると、ガイドらしき女性が「こちらからどうぞ」と私たちを促す。それから暫く、彼女の案内で遺跡を巡るが、ある時は瓦礫の上を、ある時は屋根の上を歩いたりもし、ちょっとしたアドベンチャー気分だ。
瓦礫が積み重なるベンメリア
瓦礫が積み重なるベンメリア

苔むした石造りの遺跡は、内部にも方形の瓦礫が山積みになっている。しかし、この瓦礫は一体何の残骸なのだろうか。
よく考えるとこの寺院には中央祠堂が無い。これらの瓦礫はそれら今見えていない部分の残骸なのだろうか。
この遺跡は今見えているよりも何倍も大規模だったのかもしれない。

建物の様式は、ヒンドゥーの色が濃い。建物の様式、壁に刻まれているレリーフ、いずれもこれまで見てきた遺跡同様、歴史・宗教・芸術どの方面から見ても格調が高い。
しかし、この遺跡は他の遺跡には無いオーラが感じられる。壁に生えた苔、形の整った瓦礫の山等も、そのオーラの重要な要素だ。

ベンメリアの遺跡
ベンメリアの遺跡
樹木は遺跡の壁にまで張り付いている
樹木は遺跡の壁にまで張り付いている

そして、もう一つのキーワードが、"樹木"。
地面から生えているだけではない。建造物の上に生えているものもある。そしてその根は、あるものは建造物の壁を這うようにして、あるものは空中をぐねぐねと曲がりながら、地面を目指している。
苔にしろ瓦礫にしろ、そしてこのような生え方をする樹木にしろ、この遺跡が長年忘れられてきた証拠であろう。

以前にも書いたが、“神秘的”という言葉は宗教を修飾する常套句であり、余りに使いすぎると陳腐な印象を与えてしまいかねない。
この遺跡も、“神秘的”という形容詞をつい使いたくなってしまう。しかし、その一言では何か足りない。
“謎めいた”?
“別世界のよう”?
どの言葉で形容しても足りない気がする。 『火に飛び込むシータ姫』のレリーフ
『火に飛び込むシータ姫』のレリーフ

遺跡巡りを始めた場所に戻ってきた。ふと十字回廊のある建造物の壁を見ると、保存状態のいいレリーフが刻まれている。
古代インドの叙事詩「ラーマーヤナ」中に描かれた『潔白を証明するために火に飛び込むシータ姫』の場面を描いたものである。
――シータ姫?
この名前に、もっと身近な題材で聞き覚えが無いだろうか。
実はこのベンメリア、宮崎駿監督のアニメ映画『天空の城ラピュタ』のモデルとなっている場所なのだ。その劇中に登場するヒロイン・シータは言うまでもなく、このシータ姫がモデルとなっている。
確かに、この瓦礫だらけの神殿は、「バルス」後の天空の城によく似ている。

――そうか。
“地上のものとは思えない”
「天空の城」という言葉からこのフレーズが頭をよぎった。これがベンメリアを表現するに相応しい言葉かもしれない。

参観が終わり、道案内をしてくれた女性に2人でチップを渡す。彼女は素晴らしい笑顔で手を合わせた後、恭しくそれを受け取った。

ロレイ
ロレイ
バコン
バコン
プリア・コー
プリア・コー

ベンメリアを離れ、シェムリアップに戻る途中に、ロレイバコンプリア・コーといった遺跡も訪れる。
これらもそれなりに良かったが、今日は何と言ってもベンメリアに尽きる。

シェムリアップに到着後、夕食時、私たちをベンメリアに連れて行ってくれたトゥクトゥクの運転手の自宅を訪れた。
カンボジアの質素な家庭
カンボジアの質素な家庭
バラック式の建物で、床はコンクリートむき出し、外壁はトタン、内壁はレンガという質素な家で、この時の食事も屋台で買ってきた焼き飯がメーンという質素なものだった。しかし、テレビや大型のスピーカーなど、電化製品も少ないながらある。
カンボジアは内戦から脱したばかりで、しかもシェムリアップは観光業が盛んになっているとはいえ田舎であり、お世辞にも豊かとは言えない。しかし、このつつましい家で運転手君と談笑しながら、少しずつではあるが、内戦の傷は癒え、良い方向へと向かっているような気がした。

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