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富士山

富士登山記 須走ルート登山(2016年7月)

お鉢巡り、剣ヶ峰

2016年7月22日

富士山山小屋の朝は早い。午前4時、部屋の明かりがつき、スタッフの「おはようございます」の声でたたき起こされた。
私たちは手早く装備を整え、荷物を纏め、靴を履いて食堂に出た。

朝食は、白飯とレトルトのサンマだった。
富士山山小屋の朝食
日本人の登山客はおいしく頂いていたが、西洋人の登山客はこういった血合肉が苦手なようで、せっかく提供された朝食には手を付けずに自分で持ってきたパンを朝食にする者もいた。

昨日山頂に到着した時は「曇り」だった天気が、この時は「雨」になっていた。山小屋の外ではその雨の中、夜を徹して山道を登ってきた登山客たちが寒そうにしてひしめいていた。本来なら泊まっている客と入れ替えで入るのが原則であるようなのだが、この日は天気を考慮して、彼らは私たちが出る前に中に通してもらっていた。皆、寒そうな表情をしている。
夜を徹して富士山を登ってきた人々
夜を徹して富士山を登ってきた人々

山小屋の朝が早いのも、夜を徹して山を登ってくるのも、その理由は一つだ。
御来光である。
富士山を登るからにはこれはぜひ見ておきたいものなのだが、日の出の時間である4時30分すぎになっても天気が好転する様子は無く、残念ながらこの日は御来光を拝むことはできなかった。

午前5時前、私たちのグループは準備運動の後、2日目の歩きをスタートさせた。吉田・須走の山頂入口からこの頂上富士館までは頂上の「お鉢」を時計回りに歩いてきたが、ここからもやはり時計回りに歩いて、日をまたいでお鉢を1周する形をとる。

歩き始めて間もなく、とんでもない坂道が目の前に立ち塞がる。「馬の背」と呼ばれる急坂だ。これだけの坂なら普通階段を設置するだろうに、ここから先を目指す者に試練を与えるかのように、ただ坂があるだけだ。まさしく、這いつくばるようにして登るしかない。

写真を撮る余裕は全く無かったのでgoogle mapにて様子を紹介。言うまでもなく、当日はこんなに天気は良くなかった

私は前日に、2本のストックのうち1本を折ってしまっていて、ストック1本だけというのがここに来て大きなハンディになってしまっていた。そして、難敵は斜度だけではない。地面が砂地で滑りやすいのだ。私は見事に足を滑らせ、前のめりに倒れてしまった。
「俵に足をかけて!」
仲間の1人が声をかけてきた。
[え、俵に足をかける? 相撲の土俵じゃあるまいし...]
などと一瞬思いつつ、足元を見ると、なるほど、土嚢が埋まっている箇所がある。ここに足をかければ足を滑らさずに済むということだ。

何とか急勾配を登り切ったが、皆さん更に上へと登っていく。私もその後を追って登っていくと、皆さん何かの碑の前で記念写真を撮ろうとしている。私も慌ててその輪の中に入った。
富士山剣ヶ峰にて
主催者の小林さんのカメラで撮影

その碑には、こう書かれていた。

「日本最高峰富士山剣ヶ峰 三七七六米」

そう。私は昨日、頂上に足を踏み入れたところで「登頂した!」と喜んでいたが、それだけではまだ日本最高点に達したことにはなっていなかったのだ。頂上の中の頂上・剣ヶ峰まで登りつめたことで、今度こそ、
名実ともに本当に富士山「登頂」
である。
しかし、この時はその感慨よりも坂道での疲れの方が先立ってしまっていたようで、
↓こんな表情になっていた。
剣ヶ峰に登頂した筆者
剣ヶ峰に登頂した筆者。喜びと疲れが入り交じった表情

「カズさん、ラッキーですよ! 初めて富士山に登る人がここまで来ようとはまず思いませんから」
参加者の1人にそう言われた。確かにそうかもしれない。やはり、初めての富士山挑戦は経験者の皆さんに着いて行く形にしてよかった。主催者の小林さんをはじめ、私をここまで連れて来てくれた皆さんにはどれだけ感謝してもし切れない。

ここを越えたら、あとのお鉢巡りは楽だった。あの坂を経験した後では、ちょっとした登りなら平坦にすら思えてくる。皆さんに遅れることなく着いて行くことができた。
明け方に降っていた雨もやや収まってくれたが、それでも周りは霞みで真っ白。山の下の風景など拝めようはずもない。ただ、お鉢の中は所々で見ることができ、この時期になってもまだ鉢の中に残っている雪の様子などを窺うことができた。

5時40分。
「あれ? 太陽見えますね!」
空を見ると、雲の向こう側ではあるが、お鉢越しに太陽がくっきりと見える。
太陽が見えた
既に「日の出」の時間は過ぎているし、雲の向こうなので、これでは「御来光」とはいかないが、この悪天候の中太陽の姿を見ることができたのはやはり気分がいい。

6時10分。昨日山頂への坂(階段)を登り切った吉田・須走コースの山頂入口に到着。取りあえずはここが、今回のお鉢巡りのゴール地点だ。
吉田・須走コースの山頂入口
吉田・須走コースの山頂入口

山頂の山小屋・扇屋で小休止。熱いお茶を頂いて、気温の低い中お鉢巡りをしてきた体を温める。
小屋内部の壁には、ここで働いている写真家・小岩井大輔さんの写真が展示されており、彼が撮った写真を使った日付入りの「富士山登頂証明書」をネットからダウンロードすることもできた。
日付入りと言えば、ここでは購入したキーホルダー等に日付を刻印することもしている。私も登頂記念にキーホルダーを1つ購入し、日付を刻印して頂いた。

富士山登頂記念キーホルダー(表)富士山登頂記念キーホルダー(裏)
そこへ、昨日のうちの登頂を断念して手前の山小屋に泊まっていた3人のメンバーが、2日目での登頂を達成して合流してきた。

「では、行きますか」
トイレなど準備を済ませた私たちは、小林さんの合図で再び動き出した。

富士山には、リフトもケーブルカーも無い。行き交うことを許されている機械は、業務用のブルドーザーだけだ。
登り詰めたら、今度は自力で下りるしかない。

7時5分。
下山開始

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