バス憧れの大地へ

世界への旅(旅行記)

大陸中国・重慶―三峡―赤壁

三峡ダム、葛州ダム ~水のエレベーター


三峡の光景に満足した私は、ひとまず船室に戻った。しばらくくつろいでいると、同室の中国人5人が、何やら騒ぎながら戻ってきた。ところが、戻ったと思ったらすぐに、 彼らはカメラを荷物から取り出して部屋の外に出ようとする。
三峡ダム建設現場
三峡ダム建設現場
1人が大きな声で私に言った。
三峡ダムが見えてきたぞ!」
私もその声に促されるように、カメラを手に彼らに続いた。
バルコニーに出て下流に目をやると、灰色のコンクリート塊が見えてくる。三峡ダムの建設現場だ。まだ河幅の数分の1しかできていないが、これでまだ数分の1か、と思わせられるほど大規模だ。
これがあの三峡の光景を喪失させてしまう“元凶”と言ってしまっては、言葉が過ぎるかもしれない。長江レベルの大河を有する国家にとって、治水は重大な課題なのだから。
しかし、エジプトのナイル川にアスワン・ハイダムが造られた際にアブ・シンベル宮殿が水没を免れるために移築されたのに対して、三峡の偉大な自然景観は、移築することができない。
重ね重ね、惜しまれてならない。
やがて、長江は再び闇に包まれた。
クルージングも終わりに近づいて、ようやく同室の中国人たちと少しばかりコミュニケーションを取れるようになった私は、彼らと片言の会話を楽しんでいた。
ふと、窓の外に目をやると、何やら明かりが見えてくる。私の視線に気づいた彼らも、外に目を向けた。
葛州ダムだ!」
葛州ダムは宜昌のすぐ手前にあり、高い位置にあるダムの上流から船を、水位を下げて下流へ降ろす“水のエレベーター”で有名だ。私たちは再び、船の舳先にあるバルコニーへ向かった。
水のエレベーターへの水路
水のエレベーターへの水路
水門
水面の降下とともに現れた門

途中にある食堂で、ジュディを含む3人の西洋人がテーブルで話をしていた。どうやら、葛州ダムのことには気づいていないらしい。
「もうすぐ、水のエレベーターだよ」「え?」
当時は中国語よりはマシだったとはいえ、私の英語力もたかが知れている。身振り手振りを交えて説明してみたが、ジュディは「?」のままだ。
うまく説明できないまま、私はバルコニーに出た。
船は暗闇の中、水のエレベーターへの水路を進んでいた。それ程広くないバルコニーに、20人以上の乗客がひしめいている。その中にいた何智峰と、電化製品や中国の地理の話をしながら、船が降下するのを待った。
すると、ジュディが私に近づいてきて言った。
「あなたが言ってたこと、やっと分かったわよ! (船が下がっていく私の手振りを見て)この船がタイタニックみたいに、沈んでしまうかと思ったじゃない」
やはり、うまく伝わっていなかったか…彼女の冗談めかした口調に、私は苦笑するしかなかった。
1時間ほど待っただろうか。突然、グィーンという大きな音が辺りに響いた。と同時に、水面の下降に合わせて、船が少しずつ下がっていく。しばらくすると、水の下に隠れていた巨大な門が私たちの前に姿を現した。やがて、船が降下を終えると、門がゆっくりと開き始めた。
門の向こうには、街明かりが見える。嵩山号の終着点・宜昌だ。2泊3日の三峡下りの旅も、いよいよ終わりだ。
旅の感動と余韻を乗せて、船は宜昌へ向けて、再び長江を進み始めた。

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